Monthly ESSAYS

『本のある時間』は、さまざまなジャンルの本との出会いを通して、本を読むことの楽しさ、大切さ、手に取ることの喜びを共有するネット広場です。
このコーナーでは当サイトの編集委員が、その専門の視点を踏まえた本にまつわるコラムを掲載しています。
皆様の本との新たな出会いに繋がれば幸いです。

こんな昔の本ご存じですか

09/12/01 UP!

本が生まれて2000年以上経過しました。その間にさまざまな形の本が生まれました。そこで私のエッセイでは、現在あまり書店で見かけなくなった西洋の本を、できるだけ写真入りでご紹介したいと思います。書物史の素敵な世界に皆さんをご案内いたしましょう。

第2回 ダイアナ妃の先祖が持っていた聖書

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「浮き出し模様つき小口」とはあまり馴染みのない言葉ですね。英語のgauffered (またはgoffered) edgesの訳語ですが、わが国の書物ではまずお目にかかることはありません。実は16世紀初めにイタリアで流行り、19世紀のイギリスで再び流行した製本の方法です。「金箔(あるいは銀箔)を置いた小口で、通例、点画用の押し型を、熱して押印した装飾で飾られている」と定義されています(ジョン・カーター著横山千晶訳『西洋書誌学入門』(図書出版社、1994)。

定義や解説はともかく、その美しさを堪能していただければ幸いです。画像1は1515年にフィレンツェでフィリッポ・ジュンタが印刷したキケローの『弁論集』を、この技法を用いてローマで製本したものです。金箔には当時流行った入り組んだ編み目模様が見えますね。裕福な顧客が特別注文したものでしょう。

画像2は、時代が300年も後になりますが、1825年にオクスフォードで出版された英語の聖書の浮き出し模様つき小口です。金箔に点画用押し型と彫刻刀を用いた、たいそう凝った細工が施されていて、これまた特注製本です。それが分かるのは、表表紙(画像3)の豪華な装丁の中央に、冠とL.S.というイニシアルが箔押しされているからです。ここのLSとはLavinia Spencer(旧姓ビンガム、1762-1831)、つまりダイアナ妃の5代前のスペンサー伯爵夫人のイニシアルで、この聖書は貴婦人のために製本されたのです。なお、サー・ジョシュア・レノルズによる彼女の肖像画が残されています。

本書の表紙を開いてみると、画像4のように、見返しにも真紅のモロッコ革に金箔模様が施されています。ヴィクトリア女王が即位する前に流行した摂政時代のデザインです。優れた製本師の作品ですが、残念ながら誰が製本したかは分かりません。

さらにページを開いてみますと、書物の大収集家だったスペンサー伯爵の蔵書チケット(アルソープという館の名前入り)が貼られ、右ページには英語で「これはラヴィニア・スペンサー伯爵夫人の所有になる一書で、ジョージ・ジョン・スペンサー伯爵がこの悲しき死者を追善し、残されし者の心からの友情をもって、ジョゼフ・アレン師に贈るものなり、1831年」と書かれています。つまり、この年の6月に夫人に先立たれた伯爵が、おそらく夫人付きの司祭だったアレン師に贈った本だ、ということが分かるのです。さらに、この一文の下には、アレン師が本書を娘に遺贈する旨を自署入りで書き込んでいます。この由緒ある聖書は、離婚寸前に日本を訪れたチャールズとダイアナが、東京のブリティッシュ・カウンシルで目にする機会がありました。

話がそれてしまいました。この小口装飾に魅入られた方は、インターネットでgauffered edgesを画像検索してください。欧米各地の図書館に収められた素晴らしい製本の数々を楽しむことができますよ。

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