Monthly ESSAYS

『本のある時間』は、さまざまなジャンルの本との出会いを通して、本を読むことの楽しさ、大切さ、手に取ることの喜びを共有するネット広場です。
このコーナーでは当サイトの編集委員が、その専門の視点を踏まえた本にまつわるコラムを掲載しています。
皆様の本との新たな出会いに繋がれば幸いです。

こんな昔の本ご存じですか

10/08/01 UP!

本が生まれて2000年以上経過しました。その間にさまざまな形の本が生まれました。そこで私のエッセイでは、現在あまり書店で見かけなくなった西洋の本を、できるだけ写真入りでご紹介したいと思います。書物史の素敵な世界に皆さんをご案内いたしましょう。

第10回 前小口絵には気をつけよ

冊子体の書物の場合、綴じられた部分と、三つの綴じられていない天、地、小口または前小口と呼ばれる部分がありますが、皆さんならお分かりになるでしょう。綴じられた部分の外側、つまり背には、たいてい書物の標題や著者名、そして出版年や出版社に関する情報が印刷されています。一方、その他の三つの部分は、印刷に用いられた紙と同じで、白か淡いクリーム色を呈しています。ところが、この三つの部分に、金箔やマーブル(大理石)状の装飾を施す場合があります。装飾的な効果があることと、虫除けのためだといいます。(画像1)

チャールズ・ラウリーが、1911年にマンチェスター市立美術学校の行政職を引退した際に贈られた、8折本の記念アルバムのイメージ

画像1 拡大

そして金箔やマーブルを施す前に、前小口に自然の風景や建物を描く装飾技術が、ヨーロッパでは昔から伝わっていました。これが前小口絵(Fore edge painting)です。百聞は一見にしかず、画像1をごらんください。ポケット判の小型本を出版して有名を馳せたロンドンの出版社ウィリアム・ピカリングが、1826年に出版した『シェイクスピア戯曲集』です。辞書に用いるインディア紙のような極薄の紙を用い、微細な活版活字で本文を組み、各作品の冒頭に銅版画を配したものです。前小口にはストラットフォードの生家の前に立つシェイクスピア自身の上半身が描かれています。技術的にもすぐれた前小口絵だと思います。グラスゴーのマクルホース製本所で、赤く染めた牛革で製本されました。書物が閉じられた状態では、注意深く観察しない限り、前小口絵の存在は分かりません。

チャールズ・ラウリーが、1911年にマンチェスター市立美術学校の行政職を引退した際に贈られた、8折本の記念アルバムのイメージ

画像2 拡大

さて、ジョン・カーター著横山千晶訳『西洋書誌学入門』(ABC for Book Collectors)によれば、前小口絵は次のように説明されています。

この方法は、少し広げて、そのまましっかりと固定した本の前小口に景色やその他会話の種になるようなものを描きこむことによって、装飾を施すというもので、小口はそれから平らにされて、通常の方法に従って金箔を置くので、描きこまれたものは、本を閉じているときは、はた目には分からない(そして保護されている)状態にある。ページを広げると前小口に絵が再現するという仕組みである。(p.180)

この説明でもまだしっくり来ない方は、ぜひGoogleの画像検索や動画検索で、Fore edge paintingと入れてみましょう。驚くほど多彩な実例が出ますし、動画では実際にどうやってこれを制作するかまたは見せるかを実演してくれています。天、地、前小口の三方に絵を描きこんで、うまく広げると立体的に見える「パノラマ前小口絵」などもあり、驚かされること請け合いです。人間の好奇心には際限がないことがよく分かります。

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