
『本のある時間』は、さまざまなジャンルの本との出会いを通して、本を読むことの楽しさ、大切さ、手に取ることの喜びを共有するネット広場です。
このコーナーでは当サイトの編集委員が、その専門の視点を踏まえた本にまつわるコラムを掲載しています。
皆様の本との新たな出会いに繋がれば幸いです。

11/11/05 UP!
「ソフト分野への進出」の現在と可能性について書きました。そして、電子書籍などの「ハード革命」も気になるところなので、たびたび書いてきましたが、コンピューターによる革新は、この二つだけではないのです。
雑誌編集者の方とお話ししたり、身近にいる文筆業の方とお話ししたりすると、「雑誌などの連載原稿の入稿のスタイルが激しく変わった」のだそうです。昔のイメージだと作家の先生のお宅に編集者が訪ねてゆき、締め切りになってもまだ作品ができない作家先生のせいで、編集者はその先生の自宅の別室で入稿時間を気にしながらひたすら待つ・・といった光景ですが、実際にそのようなことがあったわけです。
それが、1980年代後半から、FAXというものが登場し、一般家庭にはまだ無くとも、文筆業の先生のお宅には大きな業務用のFAXが備え付けられ、出版社への入稿はFAXでということになりました。いわゆる「ゲラ」、作家本人が訂正の赤鉛筆を入れる最初の印刷原稿も出版社から作家の自宅にFAXで届けられるようになります。初期には、機械に弱い先生が「FAXで送ったけど、原稿がまだ手元にあるぞ!」と編集部に電話してきた・・などという笑い話もありましたが、編集者が実際に著述家の家を訪ねることが少なくなり、これだけでも革命的でした。
そのころ、原稿を書く方も手書きからワープロに変化してゆき、「手書き原稿」がそもそも存在しなくなって来つつありました。ワープロ+FAXの時代はしばらく続きました。
しかし、1990年代後半、ついに、パーソナルコンピューターが登場します。最初はたしか「マイコン」と呼ばれていましたが、それも次第に「パソコン」で統一されるようになり、同時にインターネットが普及してくると・・・そうです、現代では誰もがやっている「文字情報をインターネットで送る」という行為が可能になりました。メールに添付で送るまたは、メールそのもので文字情報を送る、という作業はワープロ+FAXをあっという間に駆逐してしまい、パソコン+インターネットで送るパターンに置き換わってゆきます。ちなみに、私もこの原稿はなんと270キロで移動中に書いており、もちろんインターネット経由で編集部に送るため、現在の担当の方とお目にかかったことはありません・・。
そして、実は、この「作家」のパターンは「作曲家」のパターンにも当てはまるのです。 作曲家の作業は作家ほど一般的ではないので、詳しく解説すると専門的になりすぎるので、少し省略しますが、作曲家も作曲自体をコンピューターで行うことが可能になり、さらに、作曲した時点でコンピューターは音を出せますから、「作曲して、それを楽譜を書いて、その楽譜を見て本人か演奏家が演奏する」パターンから、「作曲した瞬間に音が出せて楽譜も完成品が印刷できる」ということになりました。しかも、デジタルデータですから、最後の「演奏家が演奏した物を録音する」というのもすっ飛ばせます。つまり「演奏した瞬間にそもそも録音が出来ている」。作家の作業以上にコンピューターによって作曲家の作業は劇的に変革されたことがおわかりいただけるでしょうか。
さらに、もちろん、デジタルデータというのはインターネット経由ででやりとり出来ますから、作曲家の作曲した曲は、「演奏された音」だろうが、「印刷された楽譜」であろうが、「別の機械(音を出すコンピューター)に演奏させるための命令が書かれたデータ」としても、送ることが出来ます。そう、現代では、作曲家の作品も、人が受け取ったり、郵便で送ったりする必要がなくなってきているのです。ただ、作家とちがうのは、テキストデータと違って音楽データは巨大になる場合が多いので、「メールに添付」ということはあまりなく、「サーバーにアップロード」する、ということが多い、ということです。
我々最終消費者が「本を買う」とか、「楽譜を買う」という行為はあまり変わっていないのに、作家や作曲家の制作・納入過程はもう既にかなり変わっています。もちろん、最終消費者も「ネットで本を買う」とか「電子書籍をダウンロードする」とか、「CDを買わないでネットで音楽をダウンロードする」という風に一部分変化してきていますが、それは「風上」の変化に比べたら、まだまだ少ない変化かもしれない・・・と時々思います。
そんな私は、自分が作るときは文字でも音楽でもデジタルデータにして送ることが多いのに、なぜか本を買ったり楽譜を買ったりCDを買ったりするのは、お店に行って選んで、さわって、リアルな物を買うのが好きです。
自分で作った物を送るときは、送るものは自作の1種類ですが、反対に消費者として沢山の本や音楽の中から自分が欲しいものを見つける「買う」、という行為においては、なるべくいろいろなサンプルを見たい、と思うからではないでしょうか。