

- 先ほどお話に上った最新作『アリス!〜』では、今まで描かれてきた『不思議の国のアリス』に加えて、『鏡の国のアリス』にも取り組まれましたね。

- 『鏡の国のアリス』は非常に難しい文学。ストーリーの進行が、チェスのルールに則っていて、実際アリスが話しかけるのは盤上で隣り合った駒のみ。物語には描かれていなくても、アリスが進むたびに、ほかの駒も動いていくわけで、それによって、アリスが危険な目に遭ったりする。そのヒヤヒヤ感も魅力なのであって、ルイス・キャロルが書いた時間軸だけで読んでも面白みに欠けるんですね。ですから、まずはチェスを覚えて、棋譜をいっぱい作って、駒を進めたり戻したりしながらストーリーのイメージを深く掘り下げていく作業をしました。

- それは素晴らしい! イギリスの小説や映画において、エドワード朝(※1901年から第一次世界大戦までの10年間)までの時代が描かれるとき、その文化の基本概念には、クリケットやチェスが含まれているんですよ。これらの精神がわかって、初めて面白さが増すという。『鏡の国のアリス』は、それの最たるものですね。

- そうなんです。教養としてのチェスが入っている人間と、これから新たに勉強して読む人間とは、どちらが正しいとかではなく、このストーリーの面白さを感じるレベルが、圧倒的に違うと思います。

- じゃあ、これからは英文科で『鏡の国のアリス』を研究したいという学生がいたら「まずはチェスを勉強して、段を取ってから来い」と言いましょう(笑)。

- (笑)。ですから、例えば、どうしてここにルーク(※城壁の形を模した駒)がいるんだろうと、ルークを消すために駒の動かしかたを模索するんですけど消えない。別の手を考えたけど、それでも消えない……。

- そうすると、ルイス・キャロルがどのぐらいチェスが好きだったのかがわかると、グッと密接になってきますね。

- そう。それからキャロルは、どの手を好んだか、つまり引き分けを好んだのか、必ずチェックメイトした(※相手のキングを自分の駒で取ること)のか。攻撃派だったのか、やんわり派だったのかがわかると、もっと面白くなりますよね。こうやって奥に入り込んでいったらキリがないのかもしれませんが、だからこそ今後も色々描ける可能性を秘めている文学作品なのだと思います。

- 非常に楽しいお話でした。有意義な時間を有難うございました。











